Vol.428
2022年10月17日 公開
芸術、スポーツ、読書、旅行など、何をするにも最適な秋は、旬のおいしいものがいっぱい出まわる季節でもあります。
秋は「実りの秋」「食欲の秋」ともいいますが、「食べること」は今と同じように昔も命にかかわるとても重要なことでした。
時代をさかのぼって江戸時代の人々の食生活をみてみましょう。
江戸時代初期の庶民の食事は一日朝夕の2食。朝、昼、晩の3回食事をするようになったのは元禄年間(1688〜1704年)だといわれています。
特別な人を除いては、庶民も武士もご飯に味噌汁、漬物など「一汁一菜」が基本で、お祝い事や行事の際にはこれに魚や豆腐、卵などがついてきていたようです。
一方、農民は、収穫した米の大部分を年貢として納めていたため、主食は粟(あわ)、稗(ひえ)などの雑穀。
たとえば朝食は雑穀で作った「もち」。昼は玄米と大根を水で炊いた「かて飯」と呼ばれる雑炊のようなもの。夜は小麦粉を練った団子入りの汁物などをよく食べていたそうです。
禁教期に人里離れた場所で暮らしていた潜伏キリシタンの多くが農民だったことを考えると、やはり同じような、いやそれよりも貧しい生活もあったのではないかと想像します。
明治期になると農耕技術の進歩により米の生産量が増加するのですが、それでも農民の食生活は、主食が雑穀から麦飯にかわっただけの一汁一菜が基本だったようです。
そんななか、キリスト教解禁後に各集落で進められた教会建設では、信徒たちが労を惜しまず資金を出し合って新たな祈りの場を手に入れたのでした。
今般の物価高により手の出せない高価な旬の食材もありますが、粗食に耐えてきた昔の人々の暮らしを思うとき、「食」のありがたさにあらためて感謝したいと思うのです。
(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)