Vol.417
2022年8月1日 公開
音楽のジャンルの一つに「Blues」があります。「ブルース」あるいは「ブルーズ」と呼ばれ、悲しみや憂うつな気分を表した音楽は多くのファンに支持されています。
19世紀後半、アメリカ南部で歌われていた黒人霊歌や労働歌から発展したといわれているブルース。その中で真っ先に思い浮かべるのが、1935年にジョージ・ガーシュインがオペラ「ボギーとベス」のために書き下ろしたアリア「サマータイム(Summer time)」。
翌年、ビリー・ホリデーが歌ってヒットして以来、ジャズのスタンダードとなり、多くのミュージシャンによってレコード化されているのでご存じの方も多いでしょう。
「夏になれば暮らしも楽になる 魚は飛び跳ね 綿花は育つ お父さんはお金持ち お母さんはきれい だから坊や 泣かないで」
歌詞の前半は純粋なブルースというよりブルース調の子守唄といった印象ですが、そこには黒人たちの綿摘み生活の過酷さが反映されているといわれています。
生活の過酷さを歌ったものといえば、五島列島へ移住した外海のキリシタンによって歌われていた唄。
「五島へ五島へと皆行きたがる 五島はやさしや土地までも 五島へ五島へと皆行きたがる 五島はいなかの襟を見る」
当初はこのように歌われていたのですが、やがてこう変化したそうです。
「五島へ五島へと皆行きたがる 五島は極楽来て(行って)みて地獄 五島は極楽 行てみりゃ地獄 二度と行くまい五島のしま」
耕作に適した土地にはすでに地元の人々が住んでおり、移住者たちは農業に適さない山間部や、漁にも不便な場所に住むしか方法はなかった。そんな境遇を嘆いて歌ったのでした。まさに「ブルース」だったのでしょう。
時代が変わっても悲しみや苦しみを抱えて生きている人はたくさんいます。歌にならなくてもその心に鳴り響いているせつないブルース。少しでもそれを聴き取れる人間でありたいものです。
(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)