Vol.98
2016年5月16日 公開
5月16日は「旅の日」。新暦1689年のこの日、松尾芭蕉が「奥の細道」の旅に出かけたことから記念日に制定されたそうです。約330年前の一歩があのすばらしい作品の誕生につながっていたわけですね。
手元にある「新明解国語辞典」で「旅」を調べてみると、「差し当たっての用事ではないが、判で押したような毎日の生活の枠からある期間離れて、ほかの土地で非日常的な生活を送り迎えること」とあります。
「差し当たっての・・・」の部分にクスッとしてしまいましたが、なるほどと納得できる解説だと思いました。
日本のキリシタン史における「旅」といえば、浦上四番崩れで言いわたされた「流罪」を浦上村のキリシタンが「旅」とよんだことが思い浮かびます。
大浦天主堂での信徒発見後の1867年春、亡くなった信徒の葬儀を僧侶の立会いなしに行ったことをきっかけに起こった浦上四番崩れ。
奉行所の取り締まりは秘密礼拝堂にまでのび、信徒とみなされた68人が捕らえられ、牢内での厳しい拷問によって21人が棄教。その後も多くの村人が検挙され迫害を受けたそうです。
幕府の禁教政策を引き継いだ明治政府は、改心しないキリシタンに対して西日本各地への総流罪を決定。1868年に114人、1870年には3,280人が移送されたといわれています。
彼らが浦上村に戻ってきたのは、キリシタン禁制の高札が撤去された1873年のことでした。
政府がくだした流罪を浦上村の人々はなぜ「旅」とよんだのでしょうか。キリスト教を信じることは決して罪ではなく、流配は信仰を深めるための旅だった。そう考えたからではないでしょうか。
新たな出会いや感動を求めて出かける旅。今年もたくさんの楽しい思い出ができるといいですね。
(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)