Vol.89
2016年3月14日 公開
高校時代、女子生徒の人気投票で学年1、2を争うSくんという友だちがいました。成績優秀、容姿端麗、万能とはいかないまでもスポーツもできるほうで、3年間、不動の地位を保っていました。
ある日の放課後、いつものように友だち数人と帰ることになって下駄箱から靴を出して履いていると、うしろでドドドッと何かが落ちる音がしました。
振り向くと大量の包みが床に散らばっていました。それがSくんの下駄箱から落ちたものだと知ったとき、僕らは唖然としました。
1969年、17歳。これが、もらう者ともらえない者を隔てるバレンタインデーの存在を知った瞬間でした。
その後、義理も含めて数個のチョコレートをもらうようになった僕は、必然的に返礼の日であるホワイトデーを知ることになり、しばらくは何事にも発展しないギブアンドテイクの青春を過ごしたのでした。
西暦269年2月14日、兵士の自由結婚禁止政策にそむいて結婚しようとした男女を救うためにバレンタイン司教が殉教したことから聖バレンタインデーとなったこの日、そして一か月後の3月14日、その二人が永遠の愛を誓い合ったことに由来するホワイトデー。
しかし、これについては史実が明らかではないことから、現在2月14日は聖人の日とされていないようですが、いずれにしても若い人にとって心ときめく日があるというのは良いことだと思います。
家族以外からチョコレートをもらうことはほとんどなくなったこの頃ですが、なぜか3月14日はもらった以上にお菓子を物色している自分がいます。もちろん、下心があるわけではないんですけどね。
(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)