Vol.73
2015年11月23日 公開
あのとき以来、私はある人物のことがとても気になっていました。「あのとき」とは、夏の終わりに聖コルベ記念館を訪れたときのこと。「ある人物」とはもちろんコルベ神父のことです。
聖コルベ記念館には、神父の功績を紹介する写真やパネル、遺品などが展示されており、館内の中央に設置された「聖コルベの部屋」には神父が愛用した机と椅子がありました。
神父はここで月刊誌『聖母の騎士』などの原稿を書き、神学校でまなぶ学生たちのために教材を作り、人々の苦しみや悲しみに向き合っていたのかもしれません。
コルベ神父は、6年間の日本滞在ののちに祖国ポーランドに帰国。やがて第二次世界大戦が始まり、ポーランドがドイツ軍に占領されると、アウシュヴィッツに収容され、妻子ある男性の身代わりとなって処刑されました。
どうして彼は他人のために命を捧げることができたのでしょうか。生きることへの執着は、死への恐怖はなかったのでしょうか。神父の机のなめらかな木肌にふれながら、私はいくつかの疑問を自分に投げかけていました。
誰かを理解しようとするならば、その人の想いに寄り添って考えることが必要だと思います。想像力をふくらませてゆっくりと丁寧に・・・。すると、ぼんやりとだけれど、何かが見えてきそうな気がするのです。気がするだけかもしれません。でも、大事なことだと思います。
まだまだ学ぶことはたくさんあります、この歳になっても。
(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)