おらしょ こころ旅

Vol.62

十字架山の思い出

2015年9月7日 公開

十字架山——。その名前を聞いたとき、無性に懐かしさがこみあげてきました。たぶん一度も登ったことのないこの山になぜ懐かしさを感じるのか、その理由を探りながらなだらかな坂道を登りはじめていました。

ところどころにのこる畑も、坂道の途中から見おろす市街地も見覚えはなく、山頂はきれいに整備されていて広場をおおう芝生の緑が輝いていました。

このあたりはかつて通っていた中学校の校区なので、近所に住んでいた同級生から山の話を聞いたことがあるのかもしれない。そう思い、今でも仲の良い友人たちにきいてみました。

幼稚園の遠足でよく訪れたことや、小学生のときに家族でハイキングにやってきてみんなで弁当を食べたこと、高校時代に初めてここでデートをしたことなど、友人たちの思い出話はほのぼのとしたものばかりでした。

十字架山は、浦上四番崩れによる流配から戻った浦上の信徒たちが信仰を表明できたことに感謝して1881年に十字架を建てた場所。キリストの処刑地ゴルゴダの丘に似ていることから十字架山と呼ばれるようになったそうです。

一度も登ったことのない十字架山になぜ懐かしさを感じるのか、みんなの話を聞きながらようやく思い出すことができました。それは中学生のとき、上級生から「絶対に誰にも話すなよ」と釘をさされた決闘のこと。そこはわんぱく盛りの少年たちの戦いの場でもあったのでした。

(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)

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