Vol.499
2024年3月18日 公開
北原白秋の作品に『あめんぼの歌』としても知られる『五十音』という童謡があります。演劇の発声練習などにも使われているようですからご存じの方もいるでしょうね。
この童謡の特徴は、五十音の各行の出だしの文字で始まる言葉から関連する言葉までの流れが「4、4、5」の数の配置になっていること。
例えば最初に登場する「あめんぼ あかいな あいうえお」。実際に口に出してみるとなんともリズミカルなフレーズです。
白秋は、子どもの個性や想像力を引き出すためには、文字を教える前に言葉の音や響きを学ばせ、語ることや歌うことを優先させるべきであると考えたようです。
ちなみに「あめんぼ・・・」のあとは「浮きもに 小えびも 泳いでる」「かきの木 くりの木 かきくけこ」「きつつき コツコツ 枯れけやき」と続きます。
ラップミュージックのようでもあり、繰り返し口ずさんでいると滑舌がよくなり、不思議と気分が高揚してきます。
法要などでよく耳にするお経にも同じような効果がありそうな気がします。
お経は釈迦の教えを弟子たちが記録したもので、これを唱えることによって故人を極楽浄土へと導き、自身も功徳や御利益を授かることができるといわれています。
長崎県平戸市生月島などで受け継がれてきた「オラショ」はどうでしょうか。
オラショは、日本語、ラテン語、ポルトガル語が混在する祈りの言葉で、国内に宣教師が不在となってからは内容の理解を伴わない呪文のように口伝で受け継がれてきました。
唱えることで信仰を守り、次世代に伝えるという使命感や達成感が生まれていたのかもしれません。
ちなみに『五十音』の最後のフレーズは「植木屋 井戸換(が)え お祭りだ」。
当時は夏になると、大勢の人が集まって井戸の水をくみ出して大掃除をする風習があったらしく、その様子がまるでお祭りのようだと表現したのではないかといわれています。
なんとも風情がありますね。
(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)