Vol.49
2015年6月8日 公開
還暦を過ぎると、結婚式よりも葬式に参列することが多くなってきます。亡くなった方のほとんどは人生の先輩方なのですが、最近では同年代の方や、学生時代の同級生などもいて、深い悲しみとともに以前よりも死を身近に感じるようになりました。
これまで参列した葬儀のほとんどは仏式でしたが、数年前に一度だけ、教会で行われた葬儀に参列したことがありました。「御霊前」を「御花料」と書き換えてバタバタと出かけた教会。そこで驚いたのが、受付で賛美歌の楽譜をもらったことでした。
キリスト教では賛美歌を歌って死者を送る。そのことはすぐに理解できたのですが、初見で歌えるほどの音楽性は持ち合わせていません。どうしよう、そう思っているうちに一曲目の前奏が流れてきました。
初めは声も出さずに歌詞を見ながら口をパクパク動かしていたのですが、この賛美歌を確実に知っていると思われる高らかな歌声がとなりとうしろから聞こえてきたのです。
その歌声を追いかけるように、若干遅れながら歌う。すると譜面も読めるような気がしてきていつのまにか大きな声で歌っていました。葬儀が始まったころの重苦しさは消え、式が終わるころにはすがすがしい気分に包まれていました。
歌にはきっと人を元気にする力があるのでしょう。聖堂に響き渡る参列者の歌声がいつまでも耳もとに残っていました。
(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)