Vol.48
2015年6月1日 公開
長崎県北松浦郡小値賀町野崎島にある旧野首教会。そこから山道に入り、ごろごろと石が転がる里道を歩いていくと、約1時間30分で舟森集落跡に着きます。
こう書くと、何の苦労もなくスムーズにたどりついたようですが、ふだん山登りなどしたことがない者にとってそれは過酷極まりない修業のような旅でした。
途中にある道しるべには訪れる人を励ます短いメッセージが添えられています。それは「ここから本番です。水分補給でも」や「気合いだー」「まだまだガンバレー」といったアドバイスや応援など。
最初は道しるべを見つけるたびに盛り上がり、同行した人たちとの会話も弾んでいましたが、しだいに笑顔も消え、「ここらで一息 ふ〜 休みましょう」ではそう言われるまでもなく休憩。最後の「到着です。ご苦労様でした」を見たとたんに倒れそうになりました。
舟森集落跡には文教場跡や教会跡のほか、斜面につくられただんだん畑の跡や、住居だった場所にはかまどの跡などもあり、散乱する食器のかけらなどからここに住んでいた人々の暮らしを想像することができます。
急斜面を開拓して得た土地で信仰を守り続けた舟森集落の人々。貧しい暮らしのなかで彼らは何を見つけたのでしょうか。そして1960年以降の高度経済成長の波は彼らに何を与えたのでしょうか。今も変わらぬ美しい海だけが、その答えを知っているのかもしれません。
(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)