Vol.392
2022年2月7日 公開
節分も過ぎ、寒さがさらにきびしくなる季節ですが、それにも負けずに咲いている椿の花をみると、少しだけ姿勢を正して歩きたくなります。
全国有数のヤブツバキの自生地として知られている五島列島では、古くから椿油の生産がさかんに行われています。
その歴史は遣唐使の時代までさかのぼるといわれており、日本からの貢物のひとつとして珍重されていたようですから、五島列島を経由して唐へと向かう船底には貴重な椿油がしっかりと納められていたのでしょうね。
椿は日本原産の常緑高木で全国に分布しているようですが、外国ではどうなのでしょうか。
椿の英語名は学名と同じ「Cameria japonica(カメリア・ジャポニカ)」。
かつてオランダ商館付の医師として出島に滞在したケンペルが17世紀に自身の著書を通して欧州に紹介したのが初めてとのこと。
その後18世紀に入ると、イエズス会の助修士がフィリピンで種を入手して持ち帰ったといわれています。
イタリアの作曲家ヴェルディの作品に「椿姫」というオペラがありますが、この演目が発表されたのが1853年ですから、助修士が持ち帰った種は見事に花を咲かせ、ヨーロッパでもその美しさを楽しむことができたのでしょうね。
五島列島にある教会のステンドグラスや天井など、内部装飾のモチーフとしても使われている椿の花。その凜とした佇まいは、弾圧という逆境に屈することなく生きた潜伏キリシタンの姿をも連想させます。
五島の椿の見頃は2月上旬からだそうです。
(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)