Vol.314
2020年8月3日 公開
キリシタン関連の書籍をめくっていると、ときどき気になる道具に出会うことがあります。
そのひとつがオテンペンシャ。
長崎県平戸市生月(いきつき)のかくれキリシタンが正月に家内を清めたり、葬送に先だって行われる行事で遺体に憑いた悪いものを追い出したりするために使うもので、普段はご神体として祭壇にまつられているそうです。
オテンペンシャは、カトリックの四旬節の46日間に1日1本ずつ、合計46本の細い麻の縄をたばねてつくられていたらしく、写真で見ると根元に握り手があり、先端部分には十字架の形をした金属片が付いています。
この金属製の十字架は一文銭などを削ってつくられているようですが、もしこれが身体に当たったらと思うだけでちょっと首をすくめてしまいます。
オテンペンシャの語源は、ポルトガル語で改悛(かいしゅん)を意味するPenitenciaだといわれています。
改悛とは、自分が犯した悪事や過ちを悔い改めること。つまりこれは、悔い改めるための苦行の道具でもあるのです。
鞭打ちの苦行は、中世ヨーロッパのカトリック信者が組織的に行っていたもので、日本では布教を通して伝えられたと考えられています。
さぁ、もうひと息!とばかりに身体に鞭打って頑張ったときもありましたが、今はそういう無理もきかない年齢になりました。
でも、思うと思わざるに関わらず誰かに迷惑をかけたり、謙虚さを欠いた無礼な態度を他人にとったりしたときに自分を戒める心の鞭は持っておきたいと思うのです。
歳をとるということはすばらしいことですが、世に老害は与えたくないですからね。
(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)