Vol.245
2019年4月1日 公開
キリスト教が禁止されていた江戸時代、幕府がキリシタンを発見するために行っていたのが絵踏(えぶ)みでした。
絵踏みは、聖母マリアやキリスト像を彫った木板や銅板などを踏ませてキリスト教徒ではないことを証明させる制度で、正月4日から8日まで実施されていたそうです。
それは奉行所から依頼を受けた町の役人が一軒ずつ家をまわり、主人から順番に家族全員を呼んで目の前で踏ませるという徹底したもの。
まだ歩けない乳飲み子は大人が抱いて聖像に足をおろし、起き上がれない病人などは足に踏み絵を押しつけていたようです。
キリシタンの家では踏むことを前提にそっと踏むことや、真ん中はできるだけ踏まないようにすることなどを子どもに言い聞かせていたともいわれています。
命を守り、信仰を続けるためには役人をあざむくしかない。だからマリア様、キリスト様、お許しください。心でそうつぶやきながら踏んだのかもしれません。
嘘をつくのはいけないことだと私たちは子どもの頃から教わってきました。しかし自分を守る手段として、あるいは相手を気遣うあまりに嘘をついてしまうこともあります。
できれば正直に生きたい、でもそう簡単にはいかない、私たちは葛藤の中にいるのです。
不確かな情報と様々な疑惑に満ちた現代社会において、何が嘘で何が真実なのかを見極めるのはとても難しくなっています。
4月1日はエイプリルフール。罪のない嘘をついてもよいとされる日です。
しかし、何気ないひと言が誰かを傷つける可能性があることなどを考えると、エイプリルフールだからと言って容易に嘘をつく気にもならないのです。
たわいもない嘘をついてみんなで笑い合っていた小学生の頃を思うと、なんだかとても寂しい気持ちになるのでした。
(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)