Vol.230
2018年12月10日 公開
取り立てて成績がよいほうでもなく、かといってスポーツが得意でもなく、特技があるわけでもない自分は将来どんな人生を送るのだろうか。
そんな不安を感じ始めたのは高校に入ってからのことでした。
悶々とした生活が続く中、ある日ラジオから流れてきた音楽に衝撃を受けたのです。それはアメリカの音楽シーンを賑わせていたヒット曲の数々でした。
ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ローリング・ストーンズ、テンプテーションズ、ビーチボーイズ、ママス&パパス、シュープリームス、ドアーズ・・・。
16歳の少年にとってそのどれもが心躍る新鮮な音楽でした。
やがて洋楽好きの同級生たちと仲良くなり、授業が終わると誰かの家に行ってレコードを聴いたり歌ったりして時間を過ごしました。
次々に発売される新しいレコードを購入し、歌詞を覚えて友だちと歌い感動を共有する。感じていた不安はしだいに遠のいていきました。
そしてその後も彼らの音楽はいろんな価値観や生き方をおしえてくれたのです。
1549年にフランシスコ・ザビエルによって日本に伝えられたキリスト教も、戦乱続きで疲弊したで民衆の心に響いた外国文化の一つだったのでしょう。
やがてそれは人々の心の支えとなり、厳しい禁教期においても信仰を守り続けるシステムを生み出していったのです。
人生は優劣や勝ち負けで決まるほど単純なものではありません。
喜びに満ちているか、生きがいを感じているか、それが人生をはかる物差しのような気がします。
50年以上も前に一人の少年の心を救ったアメリカの音楽。
出会ったときのあの感覚を忘れることなく、来年も心に響くものを探していきたいと思うのです。
(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)