おらしょ こころ旅

Vol.228

椰子の実

2018年11月26日 公開

11月26日は「ペンの日」。1935年のこの日、日本ペンクラブが創設されたことを記念して制定されたそうです。

日本ペンクラブは、詩人、劇作家、随筆家、編集者、小説家など文筆業に従事する人たちによって構成される一般社団法人。言論、表現、出版の自由の擁護と、文化の国際的交流の増進を目的としています。

その初代会長は『破壊』や『夜明け前』などの小説で知られる島崎藤村。意外かもしれませんが、彼が文壇に登場したのは『若菜集』という詩集でした。

藤村はいくつかの詩集をのこしているのですが、そのひとつ『落梅集』に収録されているのが今も愛唱歌として親しまれている『椰子の実』です。

友人の柳田國男が愛知県の海岸に流れ着いた椰子の実を見たという話をもとに作られたこの詩は、山田耕筰門下の大中寅二によって曲がつけられました。

名も知らぬ 遠き島より 流れ寄る 椰子の実一つ
故郷の岸を 離れて 汝(なれ)はそも 波に幾月

名前も知らない遠い島から流れてきた椰子の実が一つ。おまえは故郷の岸を離れて何ヵ月のあいだ波に流されてきたのか・・・。一人寂しく旅する我が身を椰子の実に重ねながらその憂いをうたった『椰子の実』。最後はこう締めくくられています。

海の日の 沈むを見れば 激(たぎ)り落つ 異郷の涙
思いやる 八重の汐々(しおじお) いずれの日にか 国に帰らん

1867年に始まった浦上四番崩れで浦上の信徒たちが「旅」と呼んだ西日本各地への流配。移送された多くの人々も夕日を見ながら涙し、いつの日か故郷に帰ることを誓ったのかもしれません。

人生を漂泊の旅ととらえた藤村、時代に翻弄された人々の想いが迫ってくるようです。

(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)

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