Vol.190
2018年3月5日 公開
「啓蟄」という言葉を知ったのは、社会人になってから随分たった頃のことだと思います。
宴席で友人が言った「けいちつ」という響きだけをたよりに、自宅に戻ってから辞書を引いてその意味を知ったのでした。
学ぶことをいかにおろそかにしていたのかとそのときは情けない気持ちになり、落ち込んだことを覚えています
啓蟄とは、冬ごもりしていた虫たちが地上に出て活動を始める頃のこと。松の幹に巻いた菰(こも)をはずす時期でもあります。
厳しい冬を乗り越え、ようやく暖かくなって虫たちが土から顔を出し、「さぁ!」とばかりに命を輝かせ始めるのです。
長い禁教期において誰にも知られないように閉じ込めていた信仰心が高札撤廃によって解き放たれ、信徒たちの心に春がやってきた瞬間と似ているかもしれませんね。
早春の暖かな陽だまりの中を歩いていると不思議と心が弾んできます。
希望にあふれた季節の到来です。
すっと背筋を伸ばして一歩を踏み出しましょう。過去は過去、ここからまた新しい人生が始まるのだから、そう自分に言い聞かせて。
それにしても「啓蟄」という漢字は難しいですね。テストに出題されたらもうお手上げ。土の中にでも隠れたい気分になります。
(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)