Vol.123
2016年11月7日 公開
秋の夕暮れ、仕事を終えて帰宅する道すがら、いつのまにか口ずさんでいる歌があります。童謡『里の秋』です。
静かな静かな 里の秋 お背戸に木の実の 落ちる夜は
ああ母さんと ただ二人 栗の実煮てます いろりばた
夕暮れの空の色や風の匂いが、幼い頃の記憶を呼び起こすからでしょうか。
日本の童謡や唱歌というと、戦前から戦後にかけて歌われていたという印象がありますが、その歴史は古く、学制が発布された明治初期にさかのぼります。
日本の近代化とともに西洋音楽教育の重要性が高まる中、政府はアメリカの音楽教育者ルーサー・ホワイティング・メーソンを招いて「小学唱歌集」を編集しました。
その際、メーソンは欧米の教会で歌われていた賛美歌を多く取り入れました。たとえば『おたまじゃくしはかえるの子』、この原曲は『リパブリック賛歌』。『蛍の光』や『むすんでひらいて』も賛美歌として歌われていたそうです。
やがて『赤とんぼ』『椰子の実』『故郷』など、日本人の作曲家による唱歌が生まれます。
興味深いのが、『故郷』の作曲者 岡野貞一はキリスト教徒で教会のオルガン奏者。『赤とんぼ』の作詞者 三木露風もキリスト教徒だったといわれています。ここにも唱歌と賛美歌の関係を見ることができますね。
さよならさよなら 椰子の島 お舟にゆられて 帰られる
ああ父さんよ 御無事でと 今夜も母さんと 祈ります
これは『里の秋』の三番の歌詞ですが、敗戦とともに南方や大陸各地から日本に引き揚げてきた人たちの中に、この歌の主人公のお父さんはいたのでしょうか。
家路を急ぐ坂道でちょっとそれが気になったのでした。
(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)