おらしょ こころ旅

Vol.105

移住者たちの歴史

2016年7月4日 公開

ドミニカに移住していた女の子が同じクラスに編入してきたのは、小学5年生のときだったと思います。背が高くてちょっと年上に見える彼女はとても快活で、束ねた長い髪を揺らしながらよく運動場を裸足で走りまわっていました。

休み時間になると、同級生たちは自分の名前をローマ字で書いてもらおうと彼女の机の前に長い列をつくりました。ぼくも並びました。

あんなきれいな筆記体を見たのは初めてで、なんだか外国人と友達になったような気分でした。

戦後の不況で失業者が増加するなか、日本政府が積極的に進めた移民政策によって多くの日本人家族が南米に移住しました。

特に住まいの提供や土地の無償譲渡など、条件が良かったドミニカの移住にはたくさんの人々が志願し、厳しい選考を経て選ばれた人たちは“移民の中のエリート”といわれたそうです。

しかし、肥沃な土地のないドミニカでの生活は厳しく、日々の糧を得ることすらできない暮らしが続き、やがて多くの家族が集団帰国することになったのです。そのなかに彼女の一家もいたのでしょう。

日本のキリシタン史においても、18世紀末、五島藩の要請で五島列島へ移住した人々がいました。彼らの多くは外海地方の潜伏キリシタンで、差別を受けながら山間のへき地で厳しい生活を送っていました。その暮らしを物語る歌が残されています。

五島へ五島へとみな行きたがる 五島は極楽 行ってみて地獄 二度と行くまい五島のしま

心に傷を負った人々の悲痛な叫びが聞こえてきそうです。

時の政策に翻弄され、過酷な人生を余儀なくされた移住者たち。その歴史は、誰もがどこででも人間らしく生きていける社会の大切さを静かに語りかけています。

(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)

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