Vol.410
2022年6月13日 公開
梅雨の時期に見頃を迎えるアジサイ。長崎市のシーボルト記念館や中島川沿い、佐世保市の世知原あじさいロードなど、県内の鑑賞スポットでは色とりどりの花が季節を告げています。
アジサイは、出島のオランダ商館医シーボルトが愛した女性、お滝さんにちなみ、彼女の愛称「オタクサ(Hydrangea otaksa)」という学名を付けてヨーロッパに紹介しました。
お滝さんは、其扇(そのぎ)という引田屋のお抱えの遊女で、丸山の花といわれるほどの美貌の持ち主だったそうです。
当時、女人禁制にも関わらず遊女だけが出入りを許されていた出島。シーボルトと其扇はここで出会い、愛を育んだのでしょう。
長崎の丸山は、京都の島原、江戸の吉原、大坂の新町と並ぶ日本有数の遊郭のひとつ。
江戸や大坂で厳しく制限されていた華美な衣装も長崎では容易に手にはいったようで、遊女たちはオランダ渡りの高級な布地に豪華な刺繍が施された着物をまとい、髪にはべっ甲細工の櫛やかんざしを付けていました。
正月8日に行われる絵踏みのときは、絢爛豪華な衣裳をまとった彼女たちを一目見ようと多くの人々が詰めかけたそうですから、キリシタンを摘発するための行事も市民にとっては一種のイベントのようなものだったのかもしれません。
ところで丸山の遊女の中にキリシタンはいなかったのでしょうか。きらびやかな衣裳で顔をかくし心で泣きながら踏み絵にそっと足をおろした遊女はいなかったのでしょうか。
そんなことを思いながら、雨にぬれた丸山を散策するのもこの時期ならではの楽しみかもしれませんね。
(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)