黒島は、対馬暖流の影響もあって比較的暖かい地域である。常緑照葉樹が濃い緑の葉を茂らせ、島全体が黒っぽく見えることから「黒島」と名付けられたとも言われている。

その中でも根谷ねや地区は島内で最も温暖な場所として知られ、巨大アコウもそびえる。その巨大アコウのすぐ近くの橋本はしもと家の脇に樹齢250〜350年と推定される「根谷の大サザンカ」がある。幹回り1.8m、樹高約10m、サザンカでは県内一の大きさで、黒島の名所のひとつだ。

このサザンカの木は、橋本家の先祖が西彼杵半島から迫害を逃れて黒島に移住する際に持ち込み、隣の家との境に植えたといわれている(佐世保市指定天然記念物)。当時、潜伏キリシタンたちは、サザンカの種から採れる油を食用として利用していた。この1本の木は貧しい生活を助ける大切な存在だったのである。

禁教時代に海をわたり、それから明治、大正、昭和と激動の時代を生き、今もなお秋になると美しい白い花を咲かせているサザンカ。その強い生命力は、潜伏キリシタンの強さと重なる。