南島原市有馬キリシタン遺産記念館には、銅版画「セビリアの聖母」の復刻版がその経緯と共に展示してある。制作者は、銅版画家の故渡辺千尋(わたなべちひろ)氏。

原版の「セビリアの聖母」は、16世紀末に有家のセミナリヨで学んだ日本人がスペインのセビリアの教会堂の壁画を参考に制作したものと考えられている。制作後、日本は禁教期に入り、当時制作された宗教画のほとんどは失われるが、「セビリアの聖母」はもう1枚の「聖家族」と共に国外に持ち出された。

それから約250年後の1869年、大浦天主堂のプティジャン神父がマニラ滞在中に、この「セビリアの聖母」と「聖家族」を奇跡的に発見(絵に1597年に有馬のセミナリヨで描かれたことを意味する記述があった)。神父は2枚の絵をローマ教皇ピウス9世に献上したが、法王は日本で保存すべきとして、両銅版画の下端に短い祈りの言葉を書き添えてプティジャン神父に託したという(現在はカトリック長崎大司教区が所蔵)。

それから126年後、セミナリヨがあった有家町(現南島原市)は、銅版画家・渡辺千尋氏(故人)に「セビリアの聖母」の復刻を依頼。渡辺氏は、400年前と同じ材料・用具を使って銅版直彫りによって制作。しかも、発見された『セビリアの聖母』は左右に切断部分があったが、渡辺氏は400年前の状態にこだわり、完璧に復刻・復元した。