1914年、東洋一といわれた浦上教会が完成したとき、正面祭壇の最上段にはイタリアから送られてきた高さ2mの木製のマリア像があった。ムリーリョの傑作「無原罪のお宿り」の絵画(マドリッドのプラド美術館に現存)をモデルに制作されたと伝えられ、両眼には青いガラス玉、水色の衣をまとい、頭の周りを12の星が取り巻く美しい像であった。

しかし、浦上教会は原爆により壊滅。マリア像も教会とともに焼失したと思われていたが、戦後、焼け跡をたずねた浦上出身の神父によってマリア像の頭の部分だけが発見された。その後、発見した神父がマリア像を大切に保管していたが、被爆30周年の年に、キリシタン研究家である片岡弥吉かたおかやきち氏の手を通じて浦上教会に返された。

現在、マリア像は、浦上天主堂の一角につくられた小聖堂に静かに安置されている。祭壇に描かれた「平和」の文字は、浦上キリシタンが迫害時に縛られて見せしめにされた柿の木の根っこを使用して書いたものである。

傷ついたマリア像は、身をもって戦争の恐ろしさ、原爆の脅威を訴え続けている。平和の使者として1985年にバチカンで展示されたほか、2000年には旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の被害地で、2010年被爆65年ではバチカン、スペイン両国で展示された。