生月島では、今もかくれキリシタンの信仰が守られている。かくれキリシタン信者は、「納戸神」とともに、仏壇や神棚を拝むことから、ヨーロッパから伝わった純粋なキリシタン信仰が、禁教時代に仏教や神道と融合して変化した信仰だと言われてきた。しかし最近では、それぞれの信仰は別個に捉えるべきだと言われている。例えば葬式では、「風離し」「道均し」「戻し」などのかくれキリシタンの儀礼と、「枕経」などの仏教の儀礼が交互におこなわれるが、混合しているのではなく、どちらも必要な一通りの行事をおこなっていて、さながら二通りの葬式をおこなっているようである。かくれキリシタン信仰に限ってみると、例えば、御神体である「お掛け絵」も、一見すると日本風の人物像にしか見えないが、「受胎告知」や「聖母子と二聖人」など、キリスト教の聖画の基本構成は踏襲されている。かくれキリシタン信仰にみられる他の宗教の要素も、キリシタン信仰が成立した頃に、すでに取り入れられていたことが分かってきた。このように、「かくれキリシタンとは何か?」という問いに対しては、さらなる研究が続けられている。
※注釈
「風離し」は病を引き起こした悪い病気を祓い出すための儀式で、オラショを唱えながらオテンペンシャで死者の体をはらい、聖水を打って清め、煎った大豆を一粒ずつ四方に飛ばす。
「道均し」は死者の魂がパライゾ(天国)へ行けるように、天への道を開くためのオラショを唱える。
「戻し」は死者の魂をパライゾに送る儀式で、御爺役や親父役が特別の祈りを唱え、遺体に聖水を振り、ロウソクの灯りをかざす。