おらしょ こころ旅

五島列島 受け継がれる風景教会物語

五島石のある暮らし

石材業を生業としてきた石文化を持つ崎浦地域。
頭ヶ島天主堂を造った良質な石は、石畳や石塀などに使用された。

五島石がつくり出す独特の景観

  • 崎浦の赤尾集落の建物。外壁の腰には高さ6尺(1.8m)もある板石が張られている。板石を壁に立て掛け、船釘のような太い釘で留め付けられている。「腰板石」と名付けられた。

  • 築60年ほどの家が連なり、家の下が石によってぐるりと囲われた独特の家屋。腰板石より上は板壁であるが、昔は杉皮が張られていた。

  • 庭の敷石も五島石。母屋には鍵の手に牛小屋が附属する。この牛小屋は北からの海風を防ぐ役割も果たす。その右手が住居。赤尾集落の家はほとんどがこのような間取りになっている。

十字架のようなかみ五島の中通島の東部エリアには、石畳のような板石材に適した五島層群が広く分布している。五島層群は加工しやすい砂岩層が中心で、幕末から明治に入ると海岸に露出する砂岩を採石する石材業が盛んになった。「五島石」と呼ばれるこの石は、石畳や石塀、家の腰板石などに利用されてきた。崎浦地域の集落では、五島石が暮らしに溶け込んだ独特の町並みを今も見ることができる。迷路のように入り組んだ細道、立派に積み上げられた石垣、そして家の腰まわりには厚さ5~6cmの板石が張り廻されてれている。外部から動物などの侵入を完全に防ぐためだろうか、そこには通気口もない。床下には収穫した甘藷を保存する「いもがま」があり、動物からの被害を受けないため、あるいは、温度湿度を調整するなどのために腰板を採用したのではないかと考えられている。そのほか突きうすや防火水槽、庭の敷石などにも五島石が利用されており、五島石を徹底的に利用した独特な集落景観が評価され、2012年に国の重要文化的景観に選定された。


良質な五島石で造られた天主堂

  • ここの腰板石は、人の背丈ほどの高さ!

  • 風化が少ないとても質の良い石が使用されている。

五島石は砂岩の中でも青みを帯びた石で、長崎市の居留地などにも使用され、オランダ坂の石や、グラバー邸の敷石に使われているという。砂岩なので加工性がよく、吸湿もよい。また、火に強いため、かまどなどの材料に適している。その一方で、ここの砂岩は年月を経ても風化しにくく苔も生えにくいなど、石材としての質の高さにも特徴がある。

変わったところでは、赤尾あかお地区で、石棺のようにも利用されていたという。頭ヶ島の対岸にある友住ともすみ集落では小路に至るまで五島石が使用されており、使わなくなった板石は半分にして石塀などに再利用されている。頭ヶ島天主堂に利用されている石もまた五島石。これだけの良質な石と文化があったからこそ、素晴らしい石造りの教会堂が完成したのである。


(文章:坂井恵子)

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