小値賀島で民宿を営む田口富三郎さん(81歳)の先祖は、舟森と深いつながりのある人物だ。江戸末期、小値賀で廻船問屋を営んでいた富三郎さんの5代前の先祖徳平治さんは外海に寄港した際、逃亡中のキリシタンの親子と遭遇する。困った人を見捨てられない気性の徳平治さんは親子を命がけで助け、使用人として小値賀に連れてきたあと、舟森に開拓者として住まわせた。彼らにとって舟森は信仰を守り通すのに絶好の場所であり、これが舟森集落の始まりとなったと伝えられている。以来、舟森の人たちは田口家の人を「だんな様」と呼び、盆や正月は野菜や果物などを届けていたという。

富三郎さんは、戦後の一時期、学校の教師として野崎中学校(分校)に赴任したことがある。「家庭訪問で舟森の家を訪ねたら、椿油で焼いたホットケーキを出してくれました、おいしかったですよ」と当時の思い出を懐かしそうに語った。