おらしょ こころ旅

Vol.69

今宵の月に照らされて

2015年10月26日 公開

季節のせいなのか、歳のせいなのか、最近、少年時代のことをよく思い出すようになりました。それは古い写真を見て懐かしむといったものではなく、今の自分が形成された源流をたどる、そんな過去への旅のようなものです。

父の仕事の関係で長崎にやってきた幼い頃から、被爆クスノキがある山王神社の境内でよく遊びました。神社の近くには一本柱鳥居があり、そこを通るたびになぜこんな形で立っているのだろうと不思議な想いで見上げていました。

それが、原爆投下の爆風によって左半分は吹き飛ばされたものの、奇跡的に残った右半分だとわかったのは小学生になってからのことでした。

小学校にはカトリック信者の家の子がたくさんいて、金曜日の給食に肉を使った料理が出ると、肉だけを残す同級生がいました。学校を休んだ子の家に給食のパンを届けたとき、家の隅に美しいマリア像があるのを見つけたこともありました。

終戦からすでに15年以上が過ぎていましたが、まだまだ人々の暮らしは貧しく、みんなが肩を寄せ合い一生懸命に生きていた時代でした。

口うるさかった近所のおじさんはまだ元気かな、喧嘩ばかりしていた一つ年上のSちゃんはどうしているのかな、今宵の月に照らされて思い出がまたひとつ、またひとつ浮かび上がってくるのでした。

(文:ヒラモトヨシノリ、イラスト:ナカムラタエ)

おらしょ通信一覧
トップ